定年後の収入設計に直撃する制度改正
2025年の年金制度改正は、60歳以降の働き方や収入計画を見直さざるを得ない大きな節目です。
特に「在職老齢年金の基準額引き上げ」と「パート・アルバイトの社会保険加入義務化」は、多くの方にとって生活直結の問題です。
良い面もあれば、注意すべき面もあります。制度改正は複雑に見えますが、「これは自分にどう関係するのか」を理解し、今のうちから対策をとることが大切です。
この記事では、そのポイントを事例と具体策を交えて解説します。
在職老齢年金のポイントを整理
制度の仕組みとカット対象になる収入の種類
在職老齢年金は、厚生年金に加入しながら年金を受け取ると、一定額を超えた分だけ老齢厚生年金の報酬比例部分が減額される仕組みです。
ポイントは、「全部の年金が減るわけではない」ということ。老齢基礎年金や加給年金は減りません。
また、厚生年金に加入していない働き方(例:フリーランス、短時間パート)や、副業収入・投資収入・家賃収入は対象外です。
これはつまり、「厚生年金に入っている仕事の給与やボーナス」だけがカット判定に使われるということです。
基準額の段階的引き上げと政府の狙い
以前は60〜64歳で28万円、65歳以上で47万円が基準額でしたが、2026年には62万円にまで引き上げられます。
背景には「高齢者にももっと長く働いてもらいたい」という政府の方針があります。
基準額が上がれば、その分給与をもらっても年金が減らされにくくなるため、健康で働き続けたい人には有利な改正です。
カット額の計算方法と注意点(モデルケース付き)
カットの有無は、以下の式で計算できます。
(給与 + ボーナス換算額 + 厚生年金額 − 基準額)÷ 2 = カット額
【モデルケース1:カットされる場合】
- 月給:50万円
- 年間ボーナス:120万円(÷12=10万円)
- 厚生年金(報酬比例部分):14万円
計算:
(50 + 10 + 14 − 62)÷ 2
=(74 − 62)÷ 2
=12 ÷ 2
=6万円カット → 厚生年金14万円が8万円に減額
【モデルケース2:カットされない場合】
- 月給:25万円
- 年間ボーナス:60万円(÷12=5万円)
- 厚生年金(報酬比例部分):10万円
計算:
(25 + 5 + 10 − 62)÷ 2
=(40 − 62)÷ 2
=マイナス → カットなし
カット額早見表(2026年4月以降 基準額62万円)
| 月給(万円) | ボーナス換算(万円) | 厚生年金(万円) | 合計(万円) | カット額(万円) |
|---|---|---|---|---|
| 25 | 5 | 10 | 40 | 0 |
| 35 | 5 | 12 | 52 | 0 |
| 40 | 10 | 14 | 64 | 1 |
| 45 | 10 | 14 | 69 | 3.5 |
| 50 | 10 | 14 | 74 | 6 |
| 55 | 10 | 16 | 81 | 9.5 |
※カット額=(合計−62)÷2
社会保険加入義務化で起きること
106万円の壁撤廃とその意味
これまでパートやアルバイトは、年収が106万円未満なら社会保険に加入せずに済みました。
しかし改正後は、年収が低くても条件を満たせば加入が義務になります。
加入すれば、健康保険と厚生年金の保険料として毎月15〜20%の天引きが発生します。
例えば月15万円の収入なら、手取りは約12万円に減ります。
これは「思ったより貯金ができない」「生活費が圧迫される」といった影響をもたらします。
企業規模の適用拡大と生活への影響
社会保険加入義務は、まずは従業員51人以上の会社から始まり、次のように小規模企業にも広がります。
- 2027年:36人以上
- 2029年:21人以上
- 2032年:11人以上
- 2035年:10人以下も対象
これが意味するのは、将来的にはほぼ全員が社会保険に加入することになるということです。
たとえ小さな商店や家族経営の職場でも、避けられなくなる時代が来ます。
影響としては、
- 手取り額の減少
- 厚生年金の加入期間が延びることで将来の年金額は増える可能性
- 会社にとっては保険料負担が発生するため、雇用形態や人員配置の見直しが進む可能性
もし「手取り減が家計を圧迫する」ことが不安なら、雇用形態を業務委託や短時間勤務に変えるなどの工夫が必要です。
自分に合った働き方を選ぶための対策
厚生年金に入らない雇用形態
在職老齢年金のカットや社会保険料の負担を避けたい場合は、まず「厚生年金に加入しない働き方」を選ぶことが有効です。
具体的には、
- フリーランスや個人事業主として働く
- 業務委託契約で会社とつながる
- 厚生年金非加入のパートやアルバイト(勤務時間・日数を少なくする)
こうした形態なら、給与から保険料が天引きされないため手取り額が減りません。また、副業や投資収入、不動産収入を活用することで生活の幅を広げることも可能です。
ただし、将来の年金額は増えないため、「今の生活の安定」か「将来の年金増額」かを天秤にかけて選ぶ必要があります。
健康状態や家計の状況に合わせて判断しましょう。
時短勤務・給与調整
給与が基準額を超えそうな場合は、勤務時間や日数を減らす方法があります。例えば、
- 週5日勤務を週3〜4日に減らす
- 1日8時間勤務を1日4〜6時間に短縮する
この方法は体力面での負担も減り、長く働き続けられるというメリットもあります。
特に「あと数万円で基準額を超える」という方は、時短勤務でわずかに収入を減らすだけで年金カットを防げることもあります。
アドバイス:勤務先に相談する際は、「健康面を考えて長く働き続けたい」「会社にとっても経験を生かせる形で貢献したい」と前向きな理由を添えると話がスムーズです。
会社との交渉
もし今の会社で働き続けたい場合、雇用形態を業務委託に変更できるか相談する価値があります。
業務委託契約になれば、厚生年金や健康保険に加入する義務がなくなり、保険料負担がなくなります。
この方法は、会社側にとってもメリットがあります。厚生年金保険料の半分負担が不要になり、人件費を抑えられるためです。
交渉する際は、
- 自分の経験やスキルをアピール
- 会社にとってのコスト削減効果を説明
- 契約後も安定的に仕事を続ける意志を示す
といったポイントを押さえると受け入れられやすくなります。
複数の収入源を持つ
年金や給与だけに頼らず、複数の収入源を作ることも長期的な安定につながります。
例:
- 副業(オンライン講師、ライティング、コンサルなど)
- 投資(配当金、債券)
- 不動産収入(小規模賃貸)
こうした収入は、在職老齢年金のカット計算には含まれません。
「働きながら副業で少しずつ貯める」という形で、老後資金の不安を減らせます。
健康を考えた働き方
60歳以降は「無理して稼ぐ」より「長く続けられる働き方」が重要です。
働きすぎて体を壊すと医療費が増え、結局は家計の負担になります。
時短勤務や在宅ワークを活用し、通勤負担やストレスを減らすことも立派な対策です。
将来の見通しを持って選択する
目先の手取り額だけでなく、5年後・10年後の生活を想像して選ぶことが大切です。
- 「今は厚生年金に加入して年金額を増やす」
- 「今は手取りを優先して厚生年金に入らない」
どちらが自分にとって安心かを、ライフプラン表に書き出して比較すると判断がぶれにくくなります。
まとめ(不安をチャンスに変える働き方)
年金制度改正は、不安を与えるだけでなく、新しい働き方の選択肢を広げる面もあります。
「何も知らないまま損をする」ことがないよう、自分の収入・年金額・勤務先の条件を把握し、早めに行動することが大切です。
制度を正しく理解すれば、60歳からの働き方はもっと自由に、そして安心して選べるようになります。


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